キングの餌食になりまして。


 やってきたのは――。


「……京極さんがこの部屋を?」

「はい。予約したみたいです」


 さっきまでキングといた空間に、今度は支配人といる。


「ここで待てと言われたんですけど、帰ろうかなと……思いまして。それでさっき部屋を出たところで、支配人に会ったんです」

「なるほど」

「あの。このスーツとそのカードキー、支配人から京極さんに返しておいてもらうことって……」


 いや、待てよ。
 そんなことをしたら『どうして実知留ちゃんを帰したの?』と支配人がキングから責められかねない。


「やっぱりなんでもないです……!」


 自分でなんとかしなきゃ。


「遠慮しないで。なんでもどうぞ」


 にっこり微笑む支配人。本当に優しい人だ。

 それに比べてあのヘンタイは……。


 さっきこの部屋で、あたしを襲った。

 そこのベッドで。何度もキスをしてきたっ……。


 唇に残っている感覚が消えそうにない。

 あんな形でファーストキスを奪われるだなんて。

 親の借金で大学やめてホテル王にオモチャ扱いされるなんて。


 あたしの人生どれだけ波乱万丈なの。

 ……なんて、悲劇のヒロインぶるつもり、ないけれど。


「っ、」

「槇さん……?」

< 36 / 112 >

この作品をシェア

pagetop