キングの餌食になりまして。
やってきたのは――。
「……京極さんがこの部屋を?」
「はい。予約したみたいです」
さっきまでキングといた空間に、今度は支配人といる。
「ここで待てと言われたんですけど、帰ろうかなと……思いまして。それでさっき部屋を出たところで、支配人に会ったんです」
「なるほど」
「あの。このスーツとそのカードキー、支配人から京極さんに返しておいてもらうことって……」
いや、待てよ。
そんなことをしたら『どうして実知留ちゃんを帰したの?』と支配人がキングから責められかねない。
「やっぱりなんでもないです……!」
自分でなんとかしなきゃ。
「遠慮しないで。なんでもどうぞ」
にっこり微笑む支配人。本当に優しい人だ。
それに比べてあのヘンタイは……。
さっきこの部屋で、あたしを襲った。
そこのベッドで。何度もキスをしてきたっ……。
唇に残っている感覚が消えそうにない。
あんな形でファーストキスを奪われるだなんて。
親の借金で大学やめてホテル王にオモチャ扱いされるなんて。
あたしの人生どれだけ波乱万丈なの。
……なんて、悲劇のヒロインぶるつもり、ないけれど。
「っ、」
「槇さん……?」