キングの餌食になりまして。



(……どうせなら、好きな人としたかった)


 堪えきれず、大粒の涙が溢れ、カーペットに落ちボトッと音がした。


「これ、使ってください」


 差し出されたのは、真っ白なハンカチ。

 誠実で紳士的な支配人にピッタリな色……。


「汚しちゃいます」

「かまいません。どうぞ」

「……ありがとう、ございます」


 受け取ろうとした、そのとき。

 ギュッと手を握られた。


「あっ……あの。支配……人?」

「奏のせいですね?」


――!


「アイツになにかされたんでしょう?」


 支配人がキングを呼び捨てにした。

 『アイツ』呼ばわりした。

 こんなの、初めてだ。そんなに親しいの……?


 支配人とキングの関係が気になりつつ、もっと気になることがひとつ。

 咄嗟にこの部屋に誘ったはいいが……。


「支配人。仕事、戻らなくて大丈夫ですか?」

「ええ。ちょうど休憩とったところで槇さんと鉢合わせになりましたから」


 そういってあたしの手を離すと、ハンカチで涙を拭ってくれた。


「……それじゃ、これからお昼ですか?」

「気にしないで。それより話を聞かせてください」

「いや、気になりますよ」

「それじゃあ一緒に食べます?」

「でも……」

「そうだ。ここで食べます?」

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