キングの餌食になりまして。


 忘れてはならない。

 あたしはまだ、キングの管理下にいるということを――。

 
「乾いたらお持ちしますね」


 支配人が部屋から出ていく。


 一人になったあたしは歯磨きをしながら、なんだかんだこの部屋を好きに使わせてもらっていることに気づく。


 できれば新品の歯ブラシ(アメニティ)には手を付けたくなかったが、私物をロッカーまで取りに行くこともできないのでやむを得ない。

 
 この歯ブラシとかアメニティごぞっと持って帰ったら日用消耗品の節約になるな……? キングが支払うんだったら存分にいただいて帰ってやろうか?


 高そうなシャンプーも化粧水も。


 ……いや、そんなことしてしまえば『さすが貧乏人』とかなんとかいって鼻で笑われ罵られるに違いない。

 絶対にするものか。


 しかしまぁ。

 ホテルでお客として過ごすって、なんて贅沢なんだろう。

 あるものはなんだって使えるし、お風呂だってうちの極狭ユニットバスの何倍も広く、心の芯までぬくもることができるだろうし。

 夜は大きなベッドでゆったり快眠でき、枕カバーやシーツの洗濯、交換なんかも全て他人任せにできる。


 ここにいる間は、まるでお城のお姫様みたいだよね。

 もちろん泊まるならその対価は支払わなきゃいけないけれど。

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