キングの餌食になりまして。
「もうやめましょうか、こんな話は。あまり勝手にベラベラ話すとあとが怖いです」
「あっ、はい……」
全部聞かなかったことにしなくちゃ。
「奏に靡(なび)かない女性は初めて見ました」
たしかにあの男は百戦錬磨っぽい雰囲気あるし、女ならキングに誘われれば二つ返事で応えてしまうのかもしれない。
たとえそれが一夜限りだとしても……。
だけど、あたしは嫌だ。
愛し合った人とじゃなきゃ嫌だ。
まだ、恋とか愛とかよくわからないけど。
それでも勢いであんなことしたくない。
間違ってもキングとはそういうことしたくない。
「……アイツのこと、もっと知りたいですか?」
「そんなことないです!」
深入りなんてしたくない。
顔だってみたくない。
あんなめちゃくちゃなヤツには、もう二度と関わらないのが一番だ――。
「頭の中、奏でいっぱいに見えます」
「ま、まさか。あり得ません」
「そうでしょうか。本当はもうひと押しで。今夜アイツのものになるような、そんな気がしてならないのですが」
京極奏に迫られドキドキしてしまったのは気の迷いだ。邪悪な悪魔の魅せる色気に狂った心のせいだ。
「……アイツより私に興味もってくださいよ」
(支配人――?)
なんだか。だんだん。
支配人の顔が近づいてくるような……。
「さっきから油断しっぱなしですね。私も男だってこと忘れていませんか?」
――え?
「それとも奏以外の男は眼中にありませんか」