キングの餌食になりまして。


「なにを焦ってるんですか?」

「あなたが奏のものになりそうで」


 あたしがキングのものに……?


「なるわけないじゃないですか!」


 身柄を拘束でもされない限り。
 たとえそうなっても心まではあげない。

 飽きればポイする気でしょ……?


「アイツは必ずあなたを抱く」

「……!」

「欲しいものは全て手に入れてきたような男ですよ。簡単に諦めるとは思いません」

「そんなことは……させません」

「では。私と一緒になってくれませんか?」


――!!


「あなたのいない毎日は、きっと退屈です。いなくならずに、これからも傍にいて欲しい。従業員としてでなく……ひとりの女性として」


(これは……夢ですか?)


「私ならあなたを泣かせません」

「支配人……」


 ねえ。待って。

 それじゃあ支配人は、あたしのことを……?


「名前で呼んでくれません?」

「……藤原(ふじわら)さん」

「律(りつ)で、いいです」


 呼ぶのを躊躇っていると再び唇が落ちてきた。


 照れくさくて目をギュッと瞑り、行き場のない手は支配人の腕を不器用につかむことしかできない。


 ……これが、好きな人との、キス……。


 キングにされたときみたいな一方的なものじゃない。お互いが、お互いを求めている。

 安心して身を委ねることができる。

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