キングの餌食になりまして。



 キングがあっさり身を引いたのは意外だった。

 別にあたしはキングから自分が特別可愛がられてるとも思ってないけれど、てっきりオモチャを奪われて駄々をこねる子供みたいな反応を予想してたのに、考えすぎだったみたいだ。


 これでわかった。

 京極奏にとって、あたしは、簡単に手放せるくらいの存在だったのだと。


 ただ、ひとつ。

 引っかかるのは、幸せになってと言い残したこと。


【――俺を誰だと思ってる?】


 傲慢なキングはもうそこにいなかった。


【律を選ぶんだね。……俺でなく】


 あんな風に振る舞われると調子が狂う。


「後悔してる?」


 顔をあげると支配人があたしを見つめている。

 敬語が抜け、途端に雰囲気が変わった。


 “元上司”から。“男”に……。


「奏でなく俺を選んだこと後悔してるんだ?」

「後悔することなんて、なにもないです……!」


 支配人といられるなら。
 なにも後悔することなんて……ない。


 そう思っているのに。

 なんで。

 なんで、こんなに不安になるの――?

< 54 / 112 >

この作品をシェア

pagetop