キングの餌食になりまして。
「好きでもないのに、キスしたんですか……?」
「キスをするのに感情なんて必要がない」
そんなわけない。
キスは、好きだからできるのであって……。
さっきかわした口づけにあたしの気持ちしか込められていなかったと思うと絶望的だ。
「あなたは、愛してるって言葉さえも……感情なしで、簡単にはけちゃうんですか」
「愚問だな。お前のどこに愛される要素があるか教えて欲しいよ」
――鬼だ。
この男は目的の為なら手段を選ばない。
キングが悪魔なら、支配人は、鬼だ。
まんまと騙された自分が。
浮かれた自分が、恥ずかしい。
どうして選ばれたなんて勘違いをしてしまったんだろう。生きる世界が違いすぎるのに。
「受け取れ」
「え……」
「手切れ金だ」
目の前でちらつかされたのは、小切手だった。
金額は2000万。
「どうした。受け取らないのか?」
これがあれば、父の借金が返せる。
あたしは死にものぐるいで働く必要もない。
それでも――。
「……いりません」
「遠慮するな。口止め料も入ってる」
「口止め料?」
「奏との間にあったことを口外するな。いいか? 受け取るからには奏には金輪際関わらないことを誓――」
「あたしを京極さんから離したいなら、こんなやり方しなくても、関わるなとそう言ってくれれば良かったのに」
「そんなわけにも、いかなかったんだ」
ぽつりとそう言った支配人は窓の外をぼんやり眺めていて、あたしのことなんてもう見ていない。
「……どうして」
「奏はああ見えて、純真なヤツなんだ」