キングの餌食になりまして。


「……取り入ったことなんてありません。京極さんが一方的に、」

「嘘よ。無愛想なクセに、キングの前では甘えてるんでしょ?」


 聞く耳を持たないから話にならない。


「あたしが京極さんに甘える理由はありません」

「聞いたわよ。アンタ借金あるんだって?」

「……!!」


 どうしてそれを知っているのか甚だ疑問だが、きっと個人情報を取り扱う誰かから、その色気(ぶき)を使ってあたしのことを聞き出したのだろう。触れぬが吉だ。


「たかが清掃員のバイトのクセに」


 契約『社員』ですが。


「仕事に戻りますので。失礼します」

「待ってよ」


 背を向けたあたしを呼び止める、中原さん。


「キングの財産狙ってんの?」

「……やめてくださいよ」

「アンタみたいなのが本命になれるわけないでしょ」


 はやいところ切り上げよう。この人、仕事はできても色濃沙汰は得意ではないらしい。関わっていられるか。



「――今の話、ホント?」


(げっ……)


 柱の影から現れたのは、あの男。


 高そうな、細身のグレースーツを身に纏い。胸元に巻かれているのは薄いピンクのアスコットタイ(幅広のネクタイ)。
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