キングの餌食になりまして。



 キングからの一度目の『待て』は、
 ものすごく逃げ出したくなった。


 仕事中にやってきて。

 ヘラヘラしてるキングが悪魔みたいに豹変し。


 奴隷になれと言わんばかりに襲い掛かってきて……。


 それを拒絶したら、クビにされ。

 寿退社とからかわれ。


 『待て』と言われた。


 なんとしてもキングから離れなければと思った。


 キングの餌食になるまい、と。


 だけど――。


『帰ってきたらたっぷり愛してあげる』


 キングからの二度目の『待て』は、
 もどかしかった。


 顔を近づけキスしてくるかと思ったら寸止めで『……続きは今夜。いい子に待てたら』って去って行ったんだ。


 あんなのズルい。されるとばかり思って目を閉じた自分が恥ずかしい。


 大人しく待っていたあたしは京極さんのキスが欲しくて仕方ない子みたいになってしまった。


 それが嫌だった。恥ずかしかった。

 それでも、何度も願った。


 はやく帰ってきて欲しいな……って。

 あのひとに、はやく、会いたいって。


 あたし、ほんと、重症だ――。


< 74 / 112 >

この作品をシェア

pagetop