キングの餌食になりまして。



 どうして気づかなかったんだろう。

 このひとの、本音に。


 どうして……。

 どうしてっ……。


「泣かないで。実知留」


 優しく手で涙を拭われる。


「自分を責めちゃだめだ」

「……え……?」

「気づいたんだ。そんなにイラついたのも、悔しくなって見捨ててやりたくなったのも。俺が、狂わしいほど実知留を愛してしまっていたからだと」


 京極さんっ……。


「だいたい君を愛してなきゃ。君のご両親に頭さげて。パスポートだってもらってきてない」


(え……?)


「俺はね。実知留が悲しむ未来なんてきてほしくなかった。なにがあっても、どんなときも、君を守るのは他の誰でもないこの俺だ」

「ごめんなさい……あたし、」

「謝らなくていい。君はなにも悪くない」

「そんなことない……! バカだった」

「バカは俺だ。君を謀るようなことばかりして本当の気持ちを隠し続けていた。そんな俺が君に選ばれるわけなかったんだ」


(……はかるようなこと?)


「だけどもう隠しはしない。素直になると決めた。だから俺のこと信じて欲しい」

「信じるよ……!」

「ありがとう」

「支配人ばかり信じて、ごめんなさい」

「それも悪くない。律に実知留を任せたのは俺だから。律の躾が足りなかった俺の責任だ」


 そうやってなにもかも自分のせいにしないで……。


「君は、君のままでいてくれたらいい。変わる必要もない」

「京極さ、」


 言葉の続きを止めるようにキスで口を塞がれた。

< 95 / 112 >

この作品をシェア

pagetop