溺愛プリンス~秘密のフィアンセ~
今度は、緊張より、今すぐここから逃げ出したい気持ちになる。

「…いいえ。お客様のものですから、私はそれを届けに来ただけなので、失礼します」

振り返って頭を下げて帰るつもりが、バッチリ目が合ってしまった。

「…美々ちゃんお願いします」
「…~~~~っ!」

北条コンチェルンの社長にもなる大物がたかがぺーぺーのパティシエに深々と頭を下げている。

私は困惑顔で見つめる。

「…ダメ?」

ク~~~~っ!

そんな顔をされたら。

「…一個だけなら」

私の言葉に、パァッと顔が明るくなる。

溜め息をつく私の背中を両手で押すと、そのままソファーに座らされた。

内線で秘書にコーヒーを頼むと、ケーキの箱を持って私の横に座った。

「…る、ルイさん、近い」
「…気にしないで、ケーキをシェアしたいだけだから」

そう言って微笑まれると、怒る気力も無くなる。

間もなくして、コーヒーを持ってきた秘書が、脇に書類を持っていた。

「…社長どうしても今、目を通していただきたいものが」
「…どれ?…あぁ、これか」

書類に目を通したルイは、秘書に的確な指示を出していく。

「…それが終わったら、今日はもう帰っていい」
「…畏まりました。失礼します」

流石は社長だ。私は感心していた。

それなのに。
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