溺愛プリンス~秘密のフィアンセ~
あんまり美味しそうにケーキを食べるから、私はルイにそう言った。

すると、ルイは嬉しそうに微笑んだ。

「…小さいときから好きだな…中でも、剛志さんのが一番好き」

『剛志さん』

それは、父の名前と一緒だった。

「…剛志さんて、もしかして、私の父ですか?」
「…そう、私の一番好きなパティシエ」

それで合点がいった。
誕生日ケーキにあのチョコレートケーキを頼んだのか。

ケーキが食べれるようになった私に、大好きなあのチョコレートケーキを毎年誕生日に作ってくれた。

…そう言えば、父や母とは別に、誰かが私の誕生日を一緒に祝ってくれてたっけ。

小さいときのことだから、よく覚えていない。

「…私の父とは、お店で?」

私の問いに、ルイは首を降る。

「…近所に住んでたんだよ。…忙しい両親は、家に居たことなんてほとんどなくて、お手伝いさんだけしかいなくて、時間が来れば、いつも独りぼっちだった。でも、剛志さんが、仕事の帰りによく、ケーキを持ってきてくれたな。食べ終わるまでずっと一緒にいてくれたよ。本当にいい人だった」

…父は、確かに、優しい人だった。怒られたことなんてなくて、いつも笑ってるような人だった。

大好きだった父。

今はもう、この世にはいないけれど。

そう思うと、目頭が熱くなる。

「…剛志さんの代わりに、貴女を甘やかしたい」
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