溺愛プリンス~秘密のフィアンセ~
シェフのフルコースを堪能し…

最後に、私の作ったバースデーケーキがテーブルの真ん中に。

それを見つめたお客様は複雑な表情。

あぁ、やはりこんなケーキでは、だめだったのか。

落胆している私を尻目に、なんと、お客様は、ホールケーキに、大雑把にフォークでそれをすくうと、大きな口で頬張った。

私は目を丸くして、お客様を見つめる。

「…あぁ、…これ…このケーキが食べたかったんだ。懐かしいな」

「…え?」

「…流石は、シェフの認めるパティシエだ。ありがとう。美々ちゃんもほら食べて」

またすくったケーキを今度は私に差し出す。

私は恐る恐るそれに近づくと、パクっとそれを食べた。

このケーキは、パティシエだった私の父が誕生日に毎年作ってくれていたケーキだった。

私が大人になる前に、病気で亡くなってしまった。

思い出のケーキ。

「…お客様は、私の父をご存知で?」

それに返答はなく、ただ微笑んだだけだった。

…しばらく黙って私を見つめていたお客様だったが、席をたった。

「…少し庭園を歩きませんか?」
「…は、はい」

言われるままに席を立つ。

…と、手を差し伸べられ、困惑する。

すると、お客様はクスッと笑って私の手を躊躇うことなく取ると、庭園に向かって歩き出した。
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