素敵な王子様の育てかた。


張り詰めたカップの中身に目を落としながら、王子は問う。
リフィト王子はその問いに対し、悩む素振りも見せずさらりと答えた。

「ごめん、一回も考えたことはなかったよ。自分には今の生活がとても合っているし満足しているし、第二王子という肩書がとても気に入っているんだ。そりゃあ兄さんが部屋から出ることのないままであったら、もしかしたら僕が、と思うこともあったけれど、……でも兄さんを信じていたから」

王子は茶をひとくち飲み、静かにテーブルに戻す。

「信じていた?」

「うん。必ず昔のような兄さんに戻れると思っていたよ」

王子はハハッと自嘲したような笑いをし、そして小さくため息を零した。

「それはどうだろう。確かにまたこうやってリフィトと話ができるまでになったが、でも昔の自分ではない。あの頃のような、真っ直ぐで怖いもの知らずの俺じゃないんだ。外の世界への恐怖と不安が消えたわけではないし、時折殻に篭りたい衝動に駆られるときもある。未だに心の中は不安定で定まらないんだ。今の俺はただの弱い人間なんだよ」

「でもその衝動や不安に負けていないじゃないか。でなければ、今兄さんはここにいないもの。大丈夫、兄さんは弱い人間なんかじゃない。そんなに自分を卑下してはダメだよ」

「……ありがとう。お世辞でもそう言ってくれて、少し自信が持てるような気がするよ。でもここまで俺が来れたのは自分だけの力じゃないんだ。あれだけ光の見えない闇の世界から目覚めさせてくれたのは――……」

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