素敵な王子様の育てかた。

――それから記憶がない。

ゆらゆらとした世界の中を漂うような感覚だった。
まるで、水の上に浮かんでいるような、それはとても心地のよい感覚だった。

しかし時折、冷たい感触でその感覚はスッと研ぎ澄まされる。
けれどまたすぐに、微睡むような世界に引き戻された。

夢を見ているのか、それとも現実なのか。

そんな中で、聞こえてきたのは王子の声。


「ごめん」と言っている。
「ララ」と私の名を言っている。

悲し気で、必死な声だった。


どうしてそんなに苦しそうなのだろう?
そんなに謝る必要なんてないのに。

もしかして私が無言で部屋を出て来てしまったことで、逆に気を使わせてしまった?


……大丈夫よ、王子。
私はそんなに弱くない。

今だけ、少し気持ちが落ちてしまっているだけ。


きっと私は、王子とその隣に立つ女性の仲睦まじい姿を、温かい目で見られるようになるから。
ふたりの幸せを願うことができるから。


――だから。


だから少しだけ、時間を。


どうか私に、王子を忘れるための時間を――……。

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