素敵な王子様の育てかた。
階段を下り、屋敷の一番奥に父の書斎はある。
部屋の前で立ち止まり、一度ため息のような息を吐いてから扉を叩いた。
「ララか?」
「はい。入ってもよろしくて?」
「いいぞ」
了承を得て、扉を開ける。
父は書類が大量に重なって置かれた机に、悩まし気に頭を掻きながら座っていた。
壁側には天井につきそうなほどの大きな本棚があり、厚い本が綺麗に並べられている。
父は異国の珍しい雑貨などを輸入し、店に卸す仕事を主にしており、そのために必要な異国関連の本がたくさん置かれていた。
中には私では読めない文字で書かれたものもあり、手に取ることすら憚るほど難しい本もあるが、しかし父はその本もすらすらと読んでしまう。
異国の者たちと対等に商売するには、そのくらいはできて当たり前のこと。
しかしそれを得るための努力は、相当大変なものだっただろうと思う。
現に次期当主となる兄は、今は屋敷を別に構えてはいるものの、ちょくちょくここに来ては父の手ほどきを受け、繋がりのある国の言語や歴史など、仕事をする上で必要な知識を学んでいた。
兄は幼い頃から優秀で、器量も要領も飲み込みの早い人ではあったが、そんな兄でもこの知識を頭の中に詰め込むのはなかなかに大変なようで、たまに食堂で愚痴を零しているのを見かけた。
それだけ難しい仕事を、父は楽々とこなす。
口うるさく煩わしいと感じるときもあるが、しかし父は私にとっては誇るべき人間のひとりなのだった。