王子様とハナコさんと鼓星
「そんな目で見ないで。安心してよ。その事に関してはあくまでも紳士的に接するから」
「そ、そうですか」
「嫌でしょ?好きでもない男に抱かれるなんて。俺は男だからいつ来てくれても構わないけど、村瀬さんは女の子だからね。俺の事を好きになってくれて、良いって言ってくれるまで待つよ」
「それは…ありがとう…ございます」
視線を戻し、人生で初めての婚姻届を書いていく。
「あと、寮生だったよね?今週中には退寮してここに住んで。部屋は空いてるから好きに使ってもいいよ」
「は、はい。あの、会社には…」
「その事はきちんと紹介するつもり。変に嘘つくのも面倒だから。取り敢えず明日には総支配人と副支配人。あとは針谷だね。それで俺の両親と村瀬さんの両親に挨拶してから、各部署の課長や主任に会議の場で発表するつもり。あ、ちなみに交際0日とは言いにくいから、交際は3ヶ月って事で」
「わかりました」
書き終わり、ペンを置くと婚姻届を手に取りながめる。
「ありがとう。次の大安の日に出しに行こうか。まぁ、その前に両親に挨拶してからだけどね」
折りたたみ、テーブルの上に置くと社長は長い脚を組み背もたれに手を回す。
「あとは呼び方。俺の名前わかるよね?」
「わかりますよ。桐生凛太朗さんです」
お客様だと間違ってから、自ら何度も私にそう名乗って来たんだから、分からないわけがない。
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