王子様とハナコさんと鼓星


「そんな目で見ないで。安心してよ。その事に関してはあくまでも紳士的に接するから」

「そ、そうですか」

「嫌でしょ?好きでもない男に抱かれるなんて。俺は男だからいつ来てくれても構わないけど、村瀬さんは女の子だからね。俺の事を好きになってくれて、良いって言ってくれるまで待つよ」

「それは…ありがとう…ございます」

視線を戻し、人生で初めての婚姻届を書いていく。


「あと、寮生だったよね?今週中には退寮してここに住んで。部屋は空いてるから好きに使ってもいいよ」

「は、はい。あの、会社には…」

「その事はきちんと紹介するつもり。変に嘘つくのも面倒だから。取り敢えず明日には総支配人と副支配人。あとは針谷だね。それで俺の両親と村瀬さんの両親に挨拶してから、各部署の課長や主任に会議の場で発表するつもり。あ、ちなみに交際0日とは言いにくいから、交際は3ヶ月って事で」


「わかりました」

書き終わり、ペンを置くと婚姻届を手に取りながめる。


「ありがとう。次の大安の日に出しに行こうか。まぁ、その前に両親に挨拶してからだけどね」

折りたたみ、テーブルの上に置くと社長は長い脚を組み背もたれに手を回す。

「あとは呼び方。俺の名前わかるよね?」

「わかりますよ。桐生凛太朗さんです」


お客様だと間違ってから、自ら何度も私にそう名乗って来たんだから、分からないわけがない。

.
< 101 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop