王子様とハナコさんと鼓星
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翌日の朝。その日、何処かの逃亡犯のようにこっそりと従業員専用入口から顔の上半分だけを出して周囲を見渡す。
正面に左右、誰もいない事を確認して足早にバックヤードを歩いて一目散に更衣室に飛び込んだ。
「ふう…よかった。誰にも会わなかった」
ホッと胸を撫で下ろし、電気をつけてロッカーを開ける。鞄をしまいポケットからスマホを取り出すとメールが1通。
「おはよう」と絵文字も何もない質素なメールに、鼻から空気を抜くような息を漏らした。
昨日、婚姻届を書いた後には社長が以前気に入ったハンバーガーを食べに。そこで食べたオニオンリングがどうやら気に入ったらしく、追加して2つも食べていた。
別れ際にはお互いの連絡先を交換。驚いた事に社長は連絡用のアプリを入れてなく、用事はメールを利用するとのこと。
この御時世にと驚いたけれど、なんでもそういうものを使って連絡するのは嫌いらしい。
なので用があるならメールか電話をお互いにする約束を交わした。
寮の部屋に鍵をしめたらメールをすると約束を交わしており、直ぐに1通おくった。その後の返信はない。そして今届いたメールが社長初めてくれたメールだ。
「おはようございます」と返事を返してスマホをしまう。作業着に着替えてからトイレに向かうため、また逃亡犯のように顔を覗かせた。
実は今日の出勤は初出勤の時のように緊張していたのだ。
社長と志田さんと主任のやり取りを目の前で見ていたから、顔をあわせにくい事この上ない。
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