王子様とハナコさんと鼓星
その為、2人に会わないようにコソコソ出勤して、ミーティングルームに皆んなが集まり賑わった頃を見計らって輪に紛れ込もうと考えていた。
ミーティングまであと20分はある。だいたい5分前に皆んなが集まる為そのタイミングまでトイレに引き籠もろう。
すれ違う他の部署のスタッフと挨拶を交わし、2人と会わないように警戒していると背後から誰かが走ってくるような大きな足音が聞こえた。
基本的にバックヤードは走らない。
それが暗黙の了解にも関わらず聞こえる音にその姿を見ようと振り向く。そこには息を切らしながら私の前で立ち止まる桜の姿があった。
髪の毛をポニーテールに結い、白のコックコートに黒のパンツ。焦げ茶色のタブリエエプロンを身に纏い手には茶色のキャップ。
「なんだ桜か。おはよう」
「はぁっ、おは、はぁっ、よう!」
乱れる息を整え、深い深い深呼吸を数回繰り返してから周囲を見渡し手招きをしてくる。
「どうしたの?と、言うか、息、大丈夫?」
「大丈夫よ。そんなことより、聞いた?」
まさか社長が結婚すること?もう、話が広がったのかな。桜にまだ何も話してなのに。
「えっと、な、なにが?社長のこと?」
「違うって事はないけど…客室清掃部の主任と志田さんが今月末で左遷させられるんだってさ。なんでも、目撃したスタッフの話しによると…あの2人が誰かまでは知らないけど同じ部署のスタッフを罵倒していた所を社長が直接聞いちゃったみたいなの」
「え…」
「それで、その間に入って注意したんだって。なんか、その日の会議での中で客室清掃部の問題を人事部と人材育成部が議会の話題として取り上げたみたいなの。再度の厳重注意をしてそれでも問題が続くようであれば左遷って話になったんだけど、社長がその場面を目撃して、左遷が決まったみたいよ」
桜はきっと、その事を早くに私に言いたかったのかもしれない。
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