王子様とハナコさんと鼓星
「待ってたよ。こっちに座って。針谷も」
ソファーに腰をおろすとその隣に昨日より少し距離を置いて社長も腰をおろす。
向かいに針谷さんが腰を下ろし、社長は時計を1度見て形の良い唇を動かした。
「華子、まぁ知ってると思うけど改めて紹介するね。俺の秘書の針谷涼太。大学時代の一期後輩。で、針谷もこの子は俺の奥さんになる村瀬華子」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します」
背筋をピンと伸ばしたままお互いに挨拶を交わす。
(針谷さんって社長の後輩だったんだ。知らなかった)
「華子、申し訳ないけれど針谷には俺達が結婚する事になった過程を話してあるよ。味方が1人はいた方が都合も良い。彼なら華子の力にもなってくれると思う」
「は、はい」
「無表情で何を考えているか分からない男だけど、頭の回転もよくて優秀で頼りになる。何か困った事があったら相談して。俺には言えない事とか、なんでもね」
社長がそう言うと針谷さんは胸ポケットから名刺入れを取り出し、1枚を差し出す。それを受け取る。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、何かありましたら、こちらの番号に。遅かれながらご結婚おめでとうございます」
強弱のない声。表情が読み取れない顔からは心からそう思っているのかお世辞なのかよく分からない。
.