王子様とハナコさんと鼓星


言えば助けてくれるかもしれない。頼みにくいけど桜の言う通りにしよう



「わかった。話して頼んでみる」


「そうだね。でも、どうしても社長が仕事とかで無理なら私に言ってね」


「ありがとう。私の事はこんな感じだけど…桜はどうなの?一ノ瀬君と結婚とか」


「私はコンテストの事で頭がいっぱい。奏多も結婚なんて微塵も考えてないよ。今は仕事が楽しいみたい」


「そうなんだ。一ノ瀬君って桜を溺愛しているからさ、そういう話があるのかなって思っていたよ。あ、お酒まだ飲む?」


冷蔵庫から冷えたお酒を取り桜に渡す。プルタブに指を引っ掛け音を立てて蓋を開けた。


同じように好きなお酒を取り、蓋を開けて飲みながら腰を下ろす。するとテーブルに置いたスマホが鳴る。


スマホを持ちロックを解除すると、1通のメール。


『寮にいる?少しだけ外に来れるかな』と書かれたメール。宛先人は桐生凛太朗。


(社長からだ。外って…社長が外にいるの?)


立ち上がり窓のカーテンを開けて外を覗く。寮の入り口に身長が高くすらっとした体型の男性の姿があった。何度となく見た細いのに逞しい背中。

「あ、いた…桜、ちょっと社長に呼ばれたから行ってくるね」


上着を羽織りスマホをポケットにしまう。髪の毛を手で梳かすと桜が頬杖をついて来た。


「なになに?もしかしてこの時間からデートのお誘いですか」

「違うよ。少し来てって連絡来ただけ。ここ待ってて」


悪い顔をした後に笑顔を浮かべ、私がみた窓から同じ方をみる。暗闇に潜む男性の姿を見つけ飲みながら手を振った。


「あーい!ごゆっくりと。私はここで見物してるわ」

「し、しなくていいから!」


桜に見送られ部屋を出る。少し長い通路を小走り歩き、エレベーターに乗り込んだ。

.
< 119 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop