王子様とハナコさんと鼓星
でも、こんな時間にどうしたんだろう。いきなり。
寮にまで来て話したい事。思い当たることはない。あ、それとも明日、社長のご両親に会う事かな。
そのことに関して仕事が終わってから行くって話だけで、何も話していない。針谷さんや支配人達に挨拶でお昼はあっという間に過ぎ去ったから。
エレベーターが1階につく。周りを見渡して寮を出た。
「えっと…あれ?」
「華子!こっち」
寮の前から少し離れた所に移動したのか、部屋から見た場所とは違う所に車がある。コートのポケットに手を入れて助手席側に寄り掛かり私の姿を見つけると軽く手を振った。
「こんばんは。遅れてごめんなさい」
「遅れてないよ。突然呼び出してごめんね。時間大丈夫かな?」
「は、はい」
車から身体を離し、目の前で見下ろされる。
「大した用事じゃないんだけど、明日に約束していた挨拶の事をお昼に話すのを忘れててさ。メールでも良かったけど、帰る途中だったから」
やっぱり、そうだったんだ。
「いえ。えっと、仕事が終わってからですよね?裏玄関で待っていればいいですか?」
「うん。俺は18時には上がるようにして車の中で待っているね。あと多分、両親が泊まれって言って来ると思うから着替えとかあった方がいいかも」
「そう、ですか…」
(社長の実家にお泊まりだなんて。いつもの寝間着なんて持っていけないな)
.