王子様とハナコさんと鼓星
「わかり、ました」
「うん。あと、これが用事の本命。手を貸して」
まるで私に握手を求めるように左手をポケットから出す。ニコニコと口元だけをニヤつかせ、その視線は私に注がれている。
なんだろう。戸惑いながら左手を伸ばすとほんの少しだけ暖かい手の平と指が手を包む。
もう片方の右手をポケットから取り出すと、社長の指が持つキラキラとした指輪にハッと息を飲んだ。
時間が止まったように息も身体も止まる。その時には、私の可愛くない手の薬指にはエタニティリングが嵌められていた。
「え、これ…えっ?」
「婚約指輪だよ。挨拶に行く前に渡したくて」
指輪を食い入るように見つめていた視線を社長に向けると、暗闇で僅かだけれど頬が赤いのが分かった。
「恥ずかしいね。女の人に指輪なんてあげたの、初めてだから」
「あ…え…っと」
「エタニティリングは永遠の証。埋め込まれたピンクダイヤモンドは完全無欠の愛、華やかさに自信や煌めき。そういう意味が込められているんだ」
「…素敵な、いい意味…ですね」
「こんな形の結婚だけど、時間を掛けてその意味に見合う関係になれればいいなって」
心がふんわりと温かく、胸がホッとする気分になる穏やかな微笑み。目を奪われてしまうその微笑みは、御伽噺の王子様のように甘美で美しい。
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