王子様とハナコさんと鼓星


無事に夫婦となった翌日、慌ただしく荷物を取りに来てくれた業者に荷物を引き渡し、最後に軽く拭く程度の清掃をして寮を出た。


半年お世話になった寮の管理人さんには社長という事は言わないで結婚する事を伝えていた。


おめでとう!と、大喜びしてくれてお祝いにお揃いのマグカップとご祝儀を渡され、感謝の言葉を述べてから寮を出た。


半年と言う短い期間だったけれど、部屋も広くて綺麗。桜と何度も行き来をして楽しんだから、愛着が湧いていて離れるのは少し寂しい。


後ろ髪を引かれる思いだったもの、これこら凛太朗さんと夫婦になると覚悟を決めて結婚した。

だから、振り向くことはせずにバスに乗り込み、マンションに向かう。


以前は凛太朗さんのあとを追うだけだった。だからなんとも思わなかったけれど、二重扉式のセキュリティーのかたさに戸惑いながら解除のやり方が書かれた紙を見てなんとか部屋に入る事が出来た。


「お、おじゃましま…す」

重いドアを開けると、自動で玄関がライトアップされ、白い壁に光が照らす。


足を踏み入れてドアを離せば、自動で鍵が施錠される。


なんか、凛太朗さんはいないのに緊張する。ここで、今日から生活しないといけないのに…今から緊張してて、心臓持つかな。


スリッパを履いてリビングのドアを開ける。この前と変わらない広々としてモダンなインテリア。


荷物を置いてレースカーテンを開くと視界に広がる絶景。夜景も綺麗だったけど、日中はまた雰囲気が変わって素敵かも。


そう思い、カーテンを閉めるとふと何かの視線を感じた。その視線を感じる方を振り向くとソファーの上には1匹の猫の姿。

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