王子様とハナコさんと鼓星
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「ごめんね、遅くなって」
「いえ。お手数掛けます」
待つこと調度1時間と少し、私服姿の凛太朗さんと合流。
お店を出て、1週間前に再会した場所に向かって歩いていた。
「そういえば、荷物の整理は終わったの?」
「はい。あ、その事ですけど…あの部屋、驚きました。凛太朗さんが、寧々さんに頼んだんですよね?」
「うん。とびきり可愛くしてって頼んだらあんな事になってね。あ、お金とか要らないからね」
言おうとした事を止められ、言葉に詰まる。やっぱり、要らないって言われちゃった。
「至れり尽くせりです。あの、ありがとうございます。可愛くて、とても気に入りました」
「良かったよ」
横断歩道の信号が赤に変わり、2人で立ち止まる。自然に伸びてきた手が私の手に触れ、驚いて凛太朗さんを見上げるもの前を向いたまま。
(は、恥ずかしい…)
ほんの少しだけ力を込められる。凛太朗さんの何気ないスキンシップはいつも突然で自然にやってくる。
に、握り返した方がいいのかな。振り払ったり何も返さないなんて良くないよね。そもそも、夫婦になったわけでこれからの事を考えると凛太朗さんに慣れないと。覚悟を、決めたんだから。
見上げた視線を元に戻してから僅かな力を込めて握り返すと鼻で息を漏らして笑う声が聞こえた。
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