王子様とハナコさんと鼓星


「どうも。桐生です」

「はぁ…ども、森山ですけど」

聡くんの鋭い視線が私と肩に置かれた手に向けられる。獲物を狙う爬虫類のような視線。


物凄い威圧感に身体に力が入り、手のひらを握りしめる。

(これ、まずいよね…私が何か言わないと…)


「あの、聡くん…わたし」

「森山君は華子の元彼って聞いたんだけど…本当なのかな?」


結婚したから。そう言おうとした私の言葉を遮り、凛太朗さんが聡くんを見る。


「ええ、そうだけど。てか、桐生さんだっけ?…どうしてここに?俺は華子と約束をしていたんだけど。華子もこれって酷いと思うんだけど」


右手で耳に触れる仕草。聡くんがイラついている時によくしていた。怖い。動揺して身体が震えると肩にあった手が腕を掴んだ私の手を握りしめて来た。

「あ…」

「酷いのは森山くんの方だと思うよ」

「は?どういう意味?」


「華子は俺の奥さんだから、勝手に誘わないで欲しいな。元彼と会うなんて言うもんだから、居ても立っても居られないから、ついて来たまでだけど…なにか問題でも?」


「結婚?それ本当なの?」


怒りを含んだ声。身体が震えてそれを誤魔化すように握られた手に力を入れてから左手を聡くんに見せた。キラリと光る指輪を見せるように。

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