王子様とハナコさんと鼓星


「うん…この前は驚いて言えなかったけど、この前結婚したの…」


「へぇ。華子が結婚…ねぇ」

「うん。だから、ご飯は行けない」


長い沈黙が流れる。周囲の音が透き通って聞こえるほど何かが研ぎ澄まされているような気分。

息を呑み、そっと聡くんの顔を見ると変わらず鋭い視線を私に向けている。蛇に睨まれた蛙のような気分。

その時、黙って聞いていた聡くんは「ちっ」と聞こえるように舌打ちをした後、背を向けて振り返る。


「あっそ。それならいいよ。まぁ、せいぜいその男に捨てられないように頑張れよ。人妻さん」

「え、あっ…」

人混みに消えていく背中。見えなくなると少しホッとした。そんな私を見下ろして凛太朗さんが顔を覗き込んで来る。


「大丈夫?」

「は、はい。あ、手…ごめんなさい」

(つい、強くにぎっちゃった)

「いいよ。なんか怯えてる顔してるね。手、繋ごうか?」

差し出された手に自分の手を乗せると指を絡めて握られる。優しい触れ方に緊張がほぐれていく。


「それにしても、あの男は本当に元彼なの?」

「はい。一応」

「元彼を悪く言うのは良くないけど…嫌な感じだね。もしかして、ご飯に誘われたって言うよりは復縁とか関係を迫られてた?」


なんでわかるの?話してない事を追求されてしまい返答に困る。
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