王子様とハナコさんと鼓星
気合を入れるとエレベーターが到着する。台車をおろしてトイレに向かうと目の前に支配人の姿。
台車を止めると私を見つけるなり軽く手を上げニヤニヤと意味深な笑顔を浮かべ近づいて来た。
「おはようございます」
「おはよう、村瀬さん」
黒のスーツを着こなし、年を重ねた色気を撒き散らしながら正面に立つ。
「引っ越しは順調に進んだのかな?」
「はい。鍵は言われた通りに寮母さんに渡しておきました」
「わかりました。で、新婚生活はどうなの?」
周りを見渡し誰もいない事を確認すると小さな声で囁かれる。
「え、えーと…」
「さっき、社長にも同じ事を聞いたら楽しいよって即答で…私も妻との新婚当初を思い出して羨ましくなったんだ」
(凛太朗さんにも、聞いたんだ…)
「まぁ、楽しいですね。と、言ってもまだ1日ですから」
「それもそうか。まぁ、何かあったら何でも相談してね」
「ありがとうございます」
時計を確認して支配人はエレベーターに乗り込む。ドアがしまる前にもう一度お辞儀をしてから台車を押してトイレに向かった。