王子様とハナコさんと鼓星


「いえ、それだけです。あの、私もお風呂に…」

「華子?」

「はい」

昨日と同じ、前腕を私の肩に乗せゴツンと頭部を重ねる。シャンプーの香りをより強く感じて視線を落として手元を見た。


「支配人には華子が可愛くて堪らないって言ったんだよ」


「は、はは…可愛くなんてないから」

「可愛いよ。他の人は知らないけど、俺にとっては可愛いの。かなり手強い難攻不落な城を早く落としたいんだよね」


「…あの」

(やだ。凄くドキドキして来た…)

「そうだ。こうやって1日に一回は抱き締めるのもいいね。夫婦だし、紳士でもこのくらいはいいか」


後頭部に手を回して私の身体を引き寄せた。


凛太朗さんの胸板に顔を埋めるように抱き締められ背中に手が回る。力強くも壊れ物を扱うような抱き締め方でもない。


ほんの少しの力が入り、頭部に音を立てて口付けを落とした。


「あ、あの…」

こんな風に男の人に抱き締められた事なんてない。聡くんにも。

凛太朗さんに私がドキドキしているのはきっと伝わっている。胸の鼓動が速いのが分かる。


「早く慣れて」

「凛太朗さん…頭がパンクしそうです」

胸板を押そうと力を入れても全然離れてくれない。最近はこんな接触ばかり。毎日毎日これでは心臓がもたない。
< 172 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop