王子様とハナコさんと鼓星
第1話 Buy seeds


***


「ねぇ、佐々木さん昨日辞めちゃったんだってさ」

「え、まだ1週間なのに?」


「なんでも、昨日支配人に泣きながら辞表出したんだって」


「あら、じゃあ…アレ、また村瀬さん1人担当になっちゃうのね」


従業員用のそれほど大きくないエレベーター。

いくら小声で話していても、良くない話は聞きたくなくても自然と聞こえてしまう。


嫌悪感を顔に出さないように努力しても嫌だと思うものは我慢出来ない。それでも唇を噛み締めて我慢をする。


一刻も早く目的の階に到着して欲しく「いそげ!」なんて願えばいつも通りの時間でエレベーターは到着してドアが開く。

「では、お先に行きます」


背後の先輩達にそう言い早足で出る。ドアが閉まり上の方に行くのを確認してから、豪快にため息をはいた。


「はぁっ…今の話し…嘘だよね?」


村瀬華子(むらせはなこ)25歳。

日本国内でここ5年で急成長をしている高級ホテル『ヴィア・ラッテア』に就職して約半年。


人生の中で、何度目かの大きな壁にぶち当たっていた。
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