王子様とハナコさんと鼓星
第2話 Planting a seed
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「えっ、それ、本当に?」
翌日、たまたま出勤時間が桜と重なり通勤しながら社長と夕食にハンバーガーを食べた話をしていた。
昨日、あの後は緊張をしながら軽い雑談を交わし、約20分ほどでお店を出てその場で別れた。
その時既に雨は止んでいて早足で寮に帰ったが、社長とご飯を食べたと言う現実に1人になってから悶絶してしまい、興奮して朝方まで眠れなかった。
おかげで瞼が物凄く重い。
濃いコーヒーを飲み、辛いガムを噛んで尚且つ桜にその事を話しながら来たのに今現在、物凄く眠い。
会社に到着して更衣室で作業着に着替えると、一部始終を聞いた桜が悪い顔で笑う。
「それさ、やっぱり気に入られているんだってば。だって、あの社長が自ら誘うだなんて。黙っていても良い女なんて寄ってくるような人なんだよ?絶対、社長は華子に対して思う事があるのよ」
「ただの気まぐれだよ。私みたいなただの清掃員に興味を持つ意味なんかないでしょ?自分で言うのは期待しているみたいで恥ずかしいんだけど…関係を迫られたわけでもないし…これで最後に誘われたら…あぁ…そう言う事ですかって納得出来るけど」
「至って紳士な態度?」
「そうです」
「それはさ、華子には手を出しにくいからだよ」
悪気ない顔で突っ込まれ、グサっと身体に刺さる。
「華子、元彼と色々あって男性と話すの苦手になったじゃん?目も男性だと慣れない人には合わせないし。そういう苦手意識って感じるから、この子には手を出しにくいな〜ってこと」
「だ、だって…」
実は、私には男性に対してトラウマがある。今でこそ、思い出す事は少なくなったけれど、当時は同じ空間にいるのも気持ち悪く吐き気が伴う事もあった。
そっと、まぶたに触れるとあの日のことを思い出してしまう。嫌な記憶。
(だめ。もう忘れたんだから!)
頭を左右にふり残像を振り払う。