王子様とハナコさんと鼓星
だから、再会なんてしたくなかった。
再会してまた同じような怪我してしまうなんて…手を伸ばして左側の傷にふれる。
また、何年も消えない傷。右の傷も五年で分からなくなったのに…
私の話を聞いて、凛太朗さんは幻滅したかな?赤裸々に話した過去。凛太朗さんはどう思っているの?
何も言わない彼の表情を見上げれば、その瞳に私はうつっていない。分かることは、怒っているという事だけ。
何か言ってよ。じゃないと…泣く立場ではないのに泣いてしまう。
「あの、凛太朗さん」
重苦しい雰囲気に耐えきれなく声を掛けた。でも、凛太朗さんは何も言わない、私を見ない。
幻滅したよね。聡くんとの関係、色んなことを赤裸々に話した。私なら耳を塞ぎたくなるような話し。
喧嘩になって、階段から落ちた事に留めておけば…
「ごめんなさい。引きましたよね。幻滅しましたよね。あの、もし凛太朗さんが離婚とかしたいのなら…」
「離婚するって?それ、本気で言ってるの?」
「だって…」
「もういいよ」
ソファーから立ち上がり、壁に掛けられたコートを見に纏う。
「行くよ」
「え…ど、どこに?」
「いいから、来て」
部屋のドアを開けて出て行く。その背中を追いかけると針谷さんとすれ違った。
驚く針谷さんに目も向かずに出て行く。何を考えているのかわからない。
そして、何故か胸騒ぎがする。凛太朗さんが何を考えているのか分からない。それなのに、根拠のない不安が私を襲った。