王子様とハナコさんと鼓星
第8章 The gale scatters the blossoms.
***
長い長い道のりだった。
凛太朗さんはホテルを出て、徒歩で何処かに向かう。2メートルほどの距離を開けて私はその大きな背中を追った。
彼は時おり振り向いて私がきちんとついて来ているか確かめる。でも、手を握ってくれるわけでもない。何か話してくれるわけでもない。
いつもの王子様のような雰囲気は今は微塵も感じない。誰も寄せ付けない、独特で何処かの支配者のようなオーラ。
同じ道路を歩く人は無意識に凛太朗さんを避けて歩く。
彼の作る道添えをただ黙ってついて行くと30分。凛太朗さんはとあるオフィスビルの前で立ち止まった。
コートのポケットからスマホを取り出し誰かに電話をする。何を話しているのかは分からなかった。
たった2メートルの距離。聞こうと思えば聞こえるのに凛太朗さんが何を考えているのか、そればかりを考えてしまいその声を聞く余裕なんてない。
視線を一度足元におろし、再度凛太朗さんを見上げる。すると、私と凛太朗さんの前に聡くんが現れた。
鞄を片手にポケットに手をいれている。私達の姿に歩いていた脚を止め、目を大きく見開いた。