王子様とハナコさんと鼓星
「それとも、なんですか?うちの取引先だと既に調べていますよね?取り引きをやめるとか?女1人の為に?」
「ははっ、面白いね」
口元を釣り上げ、凛太朗さんは笑った。ずっと、険しかった表情を崩して肩を震わせながら微笑む。
「そんな事するわけがないよ。いくら華子の為でも…そんな事をしたら、森山くんの会社は倒産するかもね」
「それなら、なにか?申し訳ないですが、俺は用事がありますので手短に」
「それなら手っ取り早く言うよ。俺も気は長くないし、かなり苛ついているから」
凛太朗さんは聡くんに詰め寄り、そっと肩に手を置いて顔を近づける。
「もう2度と華子の前に現れないでくれないかな。彼女は大切な奥さんだから、これ以上苦しめないで欲しいんだよね」
「は?失礼ですけど、俺たちの関係とか知ってるんですよね?それなのに、大切な奥さんなんですか?他の男に散々手篭めにされた女を?」
「そんな過去はどうでもいいよ。俺にとって過去なんて大した問題じゃないんだ。華子の過去に俺はいない、だから過去を咎めるなんてみっともない事はしない」
「へぇ…そうですか」
「でも、それは過去の話。この先の華子の未来には俺がいる。俺の未来にも華子がいる。その未来を傷付けるようなら、俺は許さないよ」
「…凛太朗さん……」
肩を掴む手を離す。言葉の迫力に圧倒されたのか聡くんは一歩背後に下がった。