王子様とハナコさんと鼓星
「ねぇ、覚悟はあるの?」
「は、え?どういう意味だよ」
「俺を敵に回す覚悟はあるのって聞いてるんだよ」
凛太朗さんの鋭い視線が聡くんに突き刺さる。背後にいる私でも、その視線に込められた憎悪に息を飲む。
手が震え、顔を伏せる。すると凛太朗さんはため息を吐いた。
「あとさ…森山くんには悪いけど、さっき君の上司と電話で話したんだ」
「…え…」
「彼は俺の学生時代の知人なんだよね。俺の奥さんに怪我させた事や脅した事。全て話して、取り引きを続ける代わりに君を飛ばす事を提案しておいたよ。あと、桐生グループとの取り引き業務に一切関わらないように頼んだから」
「な、なんだって…だって、さっき…そんなことはしないって」
「君の会社と君自身は違うから」
聡くんの顔がみるみるうちに青ざめていく。口元を塞ぎ、凛太朗さんを睨みつけた。
「その目はどういう意味?俺への憎しみかな?憎んでも恨んで貰っても構わないよ。だって、君はさ…俺を敵に回したんだから」
「ふざけるな、敵だって?!そんな女の為にバカじゃないのか!」
「そうだよ、彼女の事では馬鹿なんだ。華子の敵は俺の敵。容赦なんかしないよ。俺を選んでくれた華子の為にも俺は彼女を守らないといけないんだ。華子を傷付ける事は俺を敵に回す事だと言う事を己の身をもって知ればいいさ。相手が悪かったね」
向けられた笑顔は王子様ではない。笑顔なのに、まるで悪魔のように見えた。