王子様とハナコさんと鼓星


***


「あ、あの…凛太朗さん…待って」

「どうして?もう、待ちきれない」


ご飯を食べた後、何故か凛太朗さんはバスに乗りたいと言い出した。

2人でバスに乗り、最寄りのバス停で降りる。

手を繋いでマンションに戻ったが、エレベーターに乗った瞬間に肩に手を回されキスを求められた。


奪い取るような素早いキスに慌てて凛太朗さんの口を塞いで拒否すると頬を膨らませて不機嫌になる。


「ここでは、ダメです。防犯カメラとか…他の住民に迷惑ですから…」

「みんなエレベーターでキスくらいしてるよ」


塞いだ手を取られ、そのまま指先を甘噛み。生暖かい感触に身体がゾクッと震えた。

中指に啄むような口づけを繰り返して、人差し指、親指、小指、薬指へと移動。


その一連の動きは、ゆっくりで繊細。見ているだけで身体の奥が疼いていく。


恥ずかしい。この口付けはもの凄く恥ずかしい。

見るに耐え兼ね足下をみる。すると、音を立てエレベーターが到着。噛まれた手を握りなおして部屋のドアを開けた。


電気がつき、靴を脱ごうと手を伸ばすが、それより早く凛太朗さんはドアに身体を押し付ける。


昨日と同じように頭部に手を回し、抱えるように押さえ込み唇を奪われた。

触れるだけのキスを一度、その次は唇を唇で挟み、押し付ける。空気を求めて僅かにあいた隙間から凛太朗さんの熱が進入して来て、脳内は真っ白。


何も考えられない。魂を吸い取るような、乱れて、荒々しく、深く、何かを確かめるような長いキスだった。

立っていられない。足の力は抜け、力が僅かしか入らない手で凛太朗さんの袖を掴む。すると、唇が離れていきやっと空気を吸える。
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