王子様とハナコさんと鼓星
「凛太朗さん…?」
微睡みの中、背後をから身体を抱きしめて眠る彼の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「私…凛太朗さんをお客様だと間違えて良かったです。じゃないと、こんな風になっていなかった。凛太朗さんと結婚出来て……いま、幸せです」
「俺もだよ。華子が間違えてくれて良かった」
「凛太朗さんは賭けに負けたと言いましたけど…もう1つの賭けには勝ちましたね」
「え?あぁ…そっちの自信はあったから」
それは、凛太朗さんが俺と結婚して良かったと言われると言った、もう一つの賭け。
背中に感じる凛太朗さんの熱に包まれ、私はそっと目を閉じる。
「流石です。俺にかなうものはいないが名台詞のオリオンですもんね…」
「まぁ、華子には敵わないけど。こっち向いて」
肩を掴み、身体を反転させお互い向き合う。
「はぁっ…あと何十年も先だけど、早く夢を叶えたい」
「田舎とハワイに別荘を建てて、天体観測ですね。私も楽しみです」
「ありがとう」
「そう言えば…どうして、宇宙飛行士の夢を諦めたんですか?」
凛太朗さんの胸板に顔をうめ、目を閉じてとう。
「一番は親の為かな。親もね、宇宙飛行士の夢は応援してくれていたんだ。桐生グループの事は気にするなって。だけど、後継者問題とか…グループ内の蟠りとかで悩んでてさ、やっぱり俺が跡を継がないとって。両親は厳しかったけど、それ以上に優しく育ててくれたかったから、親孝行もいいかなって…そんな単純な理由」
「そう、だったんですね…」
「この道を選んだ事は後悔してないよ。それに、社長じゃなければ華子に出会えてない。結果、これで良かった」
頭上で凛太朗さんが微笑んだ。細長い指で私の頭部を撫でる。気持ち良い手だな。