王子様とハナコさんと鼓星
朝のミーティングやバックヤードの移動中、昼食中も話題は結婚の事ばかり。
聞くにたえかね、女子トイレに逃げ込もうと考えた時に凛太朗さんに会ってしまった。
そのまま何故かトイレの個室に押し込まれ、タイミングよく他のスタッフが入ってきてしまい、出るに出られなくなっていた。
そう広くない個室、身体の距離は近い。なんで、こうもこの人はトイレでこういう事をするんだろう。
「少し前に、社長の女の子が街で喧嘩してたって噂あったじゃん?その子と結婚したんだよね」
「そうだと思うよ。いいなぁ」
「だって」
私の耳元に唇を寄せて小声で囁いてから、腰に手を回す。
「ちょっ…」
凛太朗さんは1週間前と比べて、更にスキンシップが激しくなった。家では致し方ない所はあるけれど、会社でこのような事は困る。
「こうなったら、私も頑張ろう」
「今度、合コンでも行こうか」
「行く行く」
楽しそうに盛り上がり、2人はトイレから出て行く。その音を聞いてから、私は凛太朗さんの胸元を強く押して突き放す。
「凛太朗さん、今後…会社で私に構うのは禁止にしましょう」
「えっ?なんで、いやだよ」
「なんでもです。それより、早く出ましょう」
個室の鍵を開けて出ようとすれば、伸びてきた手がドアを押さえ開ける事が出来なくなる。
「こういうの、女の子は憧れるんじゃないの?会社で迫られるとかさ」
「全然憧れません…からっ」
ドアを押さえる手は開けた鍵を今一度閉めてしまう。そして、そのまま腰に回り、何故か胸元へと上がって行く。
肩口に顔を埋め、心臓の動きは早くなる。