王子様とハナコさんと鼓星
小心者で思った事が言えない性分。断る事なんて勿論出来なく、私は半年前から客室清掃部に籍を置いている。
それ自体は大問題ではない。掃除は家族一の綺麗好きだと公言出来るほど得意。
それこそ、掃除が苦手な母に変わりほとんど毎日していたから。それなのに、ため息が出るほどの壁にぶち当たっている理由は他にある。
その理由を思い浮かべ、尚且つ先ほどの佐々木さんの話で奈落の底に突き落とされた気分。
人通りのない廊下を掃除道具を乗せた台車を押しながら大きなため息を吐くと、肩を叩かれた。
「おはよう!華子!」
「ん?あぁ…おはよう…桜」
「あれ、なんか元気ないね?って、またトイレ掃除してる」
台車の中を覗き込んでいるのは川上桜。
彼女がまさしく、ここを紹介してくれた高校時代の友人。ペストリー部門でパティシエをしている。