王子様とハナコさんと鼓星
天井高く吹き抜け式。オレンジ色の情緒ある雰囲気。
すごい。老舗ホテルなのは有名で知っていたけど、内装までは知らない。初めて入った感動で周囲を見渡していればレセプションで男性と話していた社長が手招きをした。
慌てて近寄ると、何故か楽しそうに微笑まれる。
「は、はい」
「部屋取ったから案内して貰って。俺はここで帰るよ。また会社でね」
そう言うと伸びて来た手。身体が強張り力が入るとその手が私に触れる寸前でとまる。
「おっと…触らない約束だったね。でも、直接じゃないならいいか」
止まった手が社長が巻いてくれたマフラーに触れる。それを頭に被せると引き寄せられマフラー越しに頭部に口づけを落とされた。
「え…な…え?」
「じゃあ、彼女をよろしくね」
「はい。かしこまりました、桐生様」
手を離し、それ以上何も言うことなくエントランスを出て行く。
一度も振り向かない。それで、良かったと心底思う。真っ赤に染まっている顔を見られなくて良かった。
マフラーを取り顔を埋める。本当にいい匂い。キスをされた時にもフワッと鼻を掠めた香りと同じ。
社長って、本当に何を考えているか分からない。予想外のことばかりされる。
「村瀬様、お部屋にご案内致します」
そう思えば声を掛けられ、振り向く。「はい」と返事をしてついて行った。
そして、その後に案内された部屋に驚愕はしたのは言うまでもない。
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