王子様とハナコさんと鼓星



***


「はぁっ…寒い」

19時過ぎ。周囲が暗くなってきた事をきっかけにお店を出て、桜と一ノ瀬くんと別れてから1人で寮に向かって歩いていた。


恋人同士の2人。久しぶりの休みの半分を私と過ごしてくれた。残りの数時間は2人だけの時間。


歩くスピードは極めて遅い。それなのに周りの人は一刻でも早く家に帰りたいのか誰もが足速だ。


すれ違うたびに相手が起こした風が襲ってきて吐く息は少し白い。


この前の雨で気温が下がったのか、夜と朝方はよく冷える。もうじき雪が降るかもしれないな。

ふと空を見上げれば真っ黒。周囲の建物が明るすぎて昨日のような星空はない。


綺麗だったな。あんなに沢山の流れ星を見たのは初めてだった。また見たいな。


顔を正面に戻して、赤信号で立ち止まる。2人に沢山の話を聞いてもらって私は心に決めた事がある。

社長にはハッキリとあの事を聞くと。そして、本気なら考える。嘘ならそれでいい。でも、もう私のことには構うなと。


このままあやふやにしていては、私はきっとあの人の誘惑に惑わされ甘い毒を吸って捕食されてしまう。そうならないためにも、早めに手を打たないといけない。


緊張はする。明日のことなのに、今から緊張している。

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