王子様とハナコさんと鼓星
それでも、相談に乗ってくれた2人の為にもあの発言の真意を確かめないと。
色恋なんて5年ぶり。その相手が高嶺の花である社長だなんて考えもしなかったな。
信号が青に変わる。周りが歩き出す中、私も歩く。
(なんか、話して楽になった。でも、お腹が空いてきたかも。帰って何を食べようかな。冷蔵庫は何もなかったから、買いに行かないと)
横断歩道を渡り終え、近くにあるスーパーに行こうと人の流れから外れる。
すると、ふと、正面から向かって来る男性が立ち止まった。
身体が触れそうになり、避けようと右側に移動すれば突然伸びてきた手が私の肩を掴んだ。
「もしかして、華子?」
「えっ?」
顔を覗き込まれ、お互いの瞳にお互いの顔が写る。だれ?そんな疑問はほんの一瞬。
走馬灯のように昔の記憶が鮮明に蘇る。
「やっぱり。久しぶりだな。なんでこんな所にいるんだ?」
「…あ」
身体が震える。喉から声を奪われたようになんの音も発せられない。視線も挙動不審になり、息苦しくなる。
耳によく残る掠れたハスキー声、鼻を通る甘ったるい香り、肩に乗せられたゴツゴツの指。首を絞められているような威圧感。
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