王子様とハナコさんと鼓星
「今日は…だめ…なの。今日は…女の子の日で…その、ごめんなさい」
口から出まかせ。でも、そうでも言わないと彼は諦めてくれない。もしかしたら、それでも諦めないかもしれない。
賭けだった。恐怖を必死に押さえ込み震える声でそう言うと聡くんの手が離れて行く。
「あ〜…それなら駄目か。なら、一週間後にここで待ち合わせで」
「えっ…」
「絶対に来いよ。待ってるから」
「ま…待って…」
それは出来ない。そう言った言葉は聡くんには聞こえてない。
私に背を向けて人混みに消えていき、その姿が見えなくなり思わずその場にしゃがみこんだ。
込み上げてくる吐き気と憎悪。手の震えはその姿を目の前にしていた時より酷い。
なんで、なんでこんな事に。
スーパーになんて行こうと思わなければ良かった。もっと、早く歩いていれば、いや、もっとゆっくりと歩いていれば良かったのか。
晴れていた気持ちは一気に真っ黒に染まっていく。目の前は涙で歪んで見えない。
周りを歩く人が私に奇妙な視線を向ける中、その場から暫く動く事が出来なかった。
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