王子様とハナコさんと鼓星
思い出すだけでまた手が震える。忌々しい記憶が鮮明に脳内を駆け巡り、それを消し去りたくてお風呂場にはいる。
シャワーを出して衣服を来たまま頭から浴びれば嫌な記憶も洗い流してくれるような気がした。
いつもより少し温度が高いかもしれない。それでも、温度を下げる余裕はなかった。
肌に張り付く衣服のボタンを外し、服と下着を脱ぐ。手のひらに洗剤を乗せて、触れられた部分を力強く乱暴に洗う。
おかしいことしているのは分かっていた。狂った人のように身体を洗い続けると、肌は爪で傷ついて腫れ上がる。
痛みなんてなかった。身体の痛みなんて感じない。それよりも胸が痛かった。
「もう、大丈夫って思ってたのに…全然…ダメじゃん」
キュウと音を立ててシャワーのレバーを引く。ポタポタと水雫が落ちる音は、あの日と同じ音。
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