王子様とハナコさんと鼓星
なんか、出勤したばかりだと言うのにもう疲れちゃったな。きっと、朝からあんな夢を見たせいだ。
どうしたらいいんだろう。聡君のこと、本当は寮についてすぐに桜に電話をしようと思った。でも、それは出来なかった。
一ノ瀬くんと一緒にいる事は分かっていたし、コンテストで忙しい彼女にこれ以上悩みを相談するのは気が引けたから。
でも、私1人では解決なんて出来ない。聡くんの事になると冷静でなんていられなくて、流されるまま彼の思う通りになってしまうのは分かっていた。
5年前と同じように、怖くて逆らえない。昨日の嘘は私の精一杯の嘘。
納得して離してくれたけど、一週間後に何か理由をつけて断る事は出来ないと思う。
そうなると、ホテルに連れ込まれて聡くんの思う壺。考えただけでも吐き気がする。ダメ、こんな事を考えちゃダメ。
頭を左右に激しくふる。涙をこらえるために唇を噛みしめればエレベーターが2階についた。
台車を押して一つ目のトイレに向かうと、目の前に見知った背中が見えた。