王子様とハナコさんと鼓星


志田さんに怒鳴って名前を呼ばれるのは何回目だろうか。

立ち止まり、コクリと頭を下げると2人は私の前に立つ。


いつも以上に志田さんの顔に沢山のシワが寄っている。細い目を更に細め、歯をくいしばっていた。


「あなた、なんで帰るの?私の話が聞けないってことなの?」

「いえ、そのようなつもりは…」

「なによ、まさかあなた、関さんが辞めたのは私のせいだって言いたいから部屋を出たの?ねぇ、そうなんでしょ!?」

「………っ」

「なにかいいなさいよ!!」


伸びてきた手が肩に触れ突き飛ばされ身体がふらつく。持っていた鞄が手から離れ中身が散らばった。


「ふざけないでよね!私は皆んなの為に関さんを怒ったのよ!みんなが辞めて欲しいと思っているからよ!?私は正しい事をしているの!なのに…なんなの?!あなた!」


鞄から散らばったハンカチを掴み、投げつけると身体に当たってからヒラヒラと落ちていく。

「あなたの事はずっと気に入らなかったのよ!なんで、私に共感しないのよ!?そうやって、怒る私をみて…馬鹿だと惨めだって思ってるんでしょ!?」

「……っ」


顔を覆い、その場にしゃがみ込む。その姿を私と主任が見下ろすと近くにあったスマホを手に取り振りかぶった。

(まさか……)

投げる気?そう思い身体中に力を込めた時だった。

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