王子様とハナコさんと鼓星
第4話 Plants grow quickly after it rains.
背筋が異様に伸びた背中。猫背のような丸みなんて一切ない。線の一つ一つは細いのに、その背中だけはどうしてか物凄く逞しく見えた。
声を掛けようとするが、その大きく見える背中に名前を呼ぼうとした声は引き下がる。
立ち止まり、帰ろうかな。なんて考えが浮かんだが、社長はポケットからスマホを取り出すとおもむろに壁に寄りかかる。
抱いていた鞄を離して、忍び足で社長に近寄ると僅かな足音に気付いたのか背後を振り向いた。
目が合う。驚くわけでもなく微笑むわけでもない。黙ってスマホをしまい寄りかかっていた体勢を整え私に背を向ける。
いつものフワフワした王子様のような雰囲気とは何か違う気がした。志田さん達を叱りつけていた時と同じ雰囲気。
私の知っている社長とは少し違う。
隣に立ち横目で表情を伺う。怒っているような、何も考えていないような顔。少なくとも微笑んではいない。
重苦しい雰囲気。お互いの間に流れる空気は鉛以上に重い。
「あの…ごめんな、さい」
やっと出てきた言葉はなんて気を使えてないんだろう。もっと、ましな言葉なんて沢山あったのに。