王子様とハナコさんと鼓星
人生何が起こるか分からない。4年勤めた会社が突然倒産したこと。それから、色んな会社を点々としたこと。そして、このホテルで客室清掃部の確執にぶち当たった事。
あとは、この人。桐生凛太朗こと『ヴィア・ラッテア』の社長である桐生社長とトラブルになり、こういう関係になった。
トラウマの元彼にも再会した。この半年で色々あった。この結婚への誘いも何が起こるか分からない事の1つなのかな。
「社長?」
「はいはい?」
「わたし、きっと我が儘で面倒な女の子だと思います」
「そんな感じはするよ。でも、大丈夫。それを受け止める視野は持っているつもり」
「社長のこと、何にも知りません。好きな食べ物とか…好きな音楽とか、芸能人とか…色々と」
「あぁ、俺も村瀬さんのこと知らないね。これから、結婚してからお互いに知って行こう」
「…社長の好感度低いです」
「え?それは、困るな。ちなみに、どのくらい?」
「マイナス100…くらいかと」
少し大げさに言うと、ゆっくりとした瞬きを繰り返し、はは!と、声を上げて笑う。
「いいね、最高だよ。上げ甲斐があるね」
「…本当に私でいいんですか?もっと美人でお金持ちのお嬢様だって、います、よね?」
「俺の結婚相手は俺が決めるの」
「そう、ですか」
「もう、質問はいいかな?手を取ってくれる気になってるのかな?迷ってないで、取ればいいんだよ。迷うのは結婚してからにしよう」
私に一歩近づき、今一度手を伸ばされた。綺麗な手。大きくて指一つ一つが長い。
魅惑的な花は小さな虫の私を甘い蜜で誘惑している。
それを危険な誘惑だと言うのに、お腹が空きすぎてボロボロになった虫の私は、それが己を食らう花だと分かっていても、近寄ってしまう。
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