王子様とハナコさんと鼓星


バカなのかもしれないけれど、此処まで近寄ってしまったのなら栄養を吸われて吐き出されてもいいや。それが、人生は大変って事に部類されるのなら。


そっと、手を伸ばして社長の手に自身の手を重ねた。少しあたたかい温度が伝わってきたと思えば、手を握られエレベーターの中に引きずり込まれる。


ドアが閉まり、どんどん上に向かって上がって行く。すると掴んでいた手を持ち上げて指に口付けを落とした。


指にキスされたのなんて初めて。昔の絵本で王子様がお姫様にするキス。


ドキドキした。こんな人にこんな事をされて、何も感じないなんて無理だもの。


本当に手を重ねて良かったのかな。なんか、結婚したらドキドキして心臓がもたないかもしれない。


そう思い顔を外に向けると、社長は笑みを浮かべて頭に手を置いた。


「キザっぽい事を言ってみようかな。気持ち悪いかもしれないけど」

「え?」

「これからよろしくね。俺だけのお姫様」

「…え…えっと…ゾッとしました」

「ええっ!?や、やっぱり?まぁ、ちょっと、真顔で言ったから…恥ずかしい」


「はい…ふ、ふふっ」

手を離して額に手を置く社長の頬は少し赤い。自分で言って、やっぱり恥ずかしかったようだ。

わたしは、この人に賭けてみよう。社長と出会ったのも何かの縁。自信過剰な社長に賭けてみる。

でも、社長は…あの事を知ったらどうするんだろうな。元彼との事を知ったら、きっと引くかもしれない。

そんな事が過ったけれど、目の前で照れる社長を前にそんな事よりおかしくて、私は自然に微笑んでいた。

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