優しいさよなら
「・・・奪えば?」
心臓を鷲掴みにされるような痛み。
「あのねー・・・そういうのはイイ女がやることなんやって。ええのよ、別に。カレが幸せそうなら。笑ってるとこが大好きなんやから」
半分ホント、半分ウソ。
「相手、幸せそうなの?」
「これ以上ないくらい」
キミのことだけどね。
そのまま終わりまでポツポツと話しながら飲み続けた。
わたしと高山くんは私鉄の沿線が同じで一駅違いだ。同期会が終わった後、二次会の誘いを断り2人で帰途につく。
混み合う電車内でさりげなく私をドアに押し付け、わたしの耳の横に手を付き両腕で囲うように前に高山くんが立つ。
優しすぎる。
今優しすぎる高山くんは辛い。
視界が揺らぐ。
零れ落ちる涙を見られないように下を向いて堪える。
「高村?」
様子がおかしいわたしを窺うように屈んでわたしの顔を高山くんが覗き込んだ。
電車がわたしの降りる駅に滑り込み、顔を背けて逃げるようにホームに降りると一緒に高山くんも降りる。